従業員が日々の業務のなかから学びを得る方法
人がスキルを身につけるのは約7割が仕事の経験からといわれています。そうであれば、無理に手間とコストをかけてまで従業員研修やオンザジョブトレーニング(OJT)を実施する必要は無くなります。ここからは、従業員が日々の業務を通して知識や技術を得る方法を紹介します。
従業員に経験を積ませる
従業員に経験を積ませる前に、教育プログラム実施担当者がまず行うべきことは、その目的を明確にすることです。つまり、従業員にどのようなことを学んでもらいたいかといったことをあらかじめ明確にしたうえで、本人にそのことを伝えます。それが必要なのは、本人とってみれば、何も知らされないままいきなり新しい業務を任されるよりも、教育プログラムの意図が分かっていた方が効果的に学習に取り組むことができるからです。
次に、従業員に経験させる業務は、本人の能力よりも少し高めの業務、あるいはこれまで経験したことのない業務をこなす機会を与えることがポイントです。従って、教育プログラム実施担当者は、対象となる従業員の能力を事前に把握しておく必要があります。
例えば、見習い中の新入であれば先輩社員と同じ仕事を与える、仕事に慣れてきた従業員であればチームリーダーを経験させる、中堅社員であれば新規事業の立ち上げを任せる、といったことが考えられます。また、本人が所属する部署の業務ではなく、それとは異なる部署の業務を体験させることも、本人にとっては仕事に対する視野を広げる絶好に機会にもなります。特に新人の場合は、自分が働いている会社の仕組みを知る機会にもなります。また、経理部門の業務を担当させることは、会社の仕組みを数字で理解できるだけでなく、企業経営に欠かせないコスト感覚を磨くこともできます。
いずれにしても、教育プログラムを受講する従業員に対しては、彼らがこれまでに経験したことがない新しい業務をこなす機会を与えることが何よりも重要です。
経験したことを振り返る
振り返る機会を作る
従業員がこれまでに経験したことがない新しい業務を無事こなしたとしても、それだけでは必ずしも学びには繋がりません。従って、本人に対しては、通常の業務を離れて経験したことを振り返る機会を与える必要があります。そして、その振り返りは大きく分けて、内省的観察と抽象的概念化に分かれます。なお、振り返りは通常の業務を離れて行うことになるので、事前に計画を立てておく必要があります。
内省的観察を行う
「内省的観察」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は経験したことを具体的に記述することです。例えば、先輩社員と同じ仕事を経験した新人であれば、「分からない用語があった」「指示されたことを取り違えてしまった」「失敗しないためには、自分が納得するまで質問する」といったことを記述するかもしれません。
またチームリーダーを経験した従業員であれば「上から目線で指示しただけではみんなは動いてくれない」「与えられたチーム目標に対してメンバーの間で温度差があった」「チームとして力を発揮するには、目標を共有して密なコミュニケーションが必要になる」といったことを記述するかもしれません。
いずれにしても、今回紹介する学習プログラムの要となるのが、この内省的観察といっていいでしょう。
抽象的概念化を行う
「抽象的概念化」とは、簡単に言えば、上記の内省的観察から得られた気づきを基に、次の具体的な行動を明らかにすることです。
「分からない用語があった」と気づいた新人であれば、先輩社員に教えを請う、本屋にいって用語辞典を購入する、といった具体的な行動に繋げます。また、「チームとして力を発揮するには、目標を共有して密なコミュニケーションが必要になる」と気づいた社員であれば、本屋でリーダーシップに関する本を購入する、リーダシップに関する研修を受講する、といった具体的な行動に繋げます。
意見交換をする
最後に必要になるのは、教育の対象となった各従業員が集まり、経験したことや振り返った結果気がついたことなどを意見交換することです。そうすれば、自分が経験したことをこれまでとは異なる視点から振り返ることができます。
ただし、留意点があります。従業員が集まって経験したことをただ振り返るだけでは、起こった出来事を羅列するだけになることが少なくありません。そこで必要となってくるのが、適切な指導者役が必要です。指導者役の役目は、質の高い質問を従業員に投げかけ、彼らにより深い気づきを与えることです。特に、振り返りの習慣がまだ身についていない若手社員の場合は、こうした適切な指導者役が欠かせません。
最後にこれまでの内容をまとめます。従業員が日々の業務のなかから学びを得るには、意図的に彼らに新しい経験を積ませること、そして経験したことを振り返って気づきを得ることです。その際は、質の高い質問のできる適切な指導者役が必要になってきます。