これからの医療現場のリーダーを育てる方法
厚労省は、チーム医療を推進するための補助事業を行っています。このチーム医療は、さまざまな医療現場で導入されており、医療に携わるスタッフがそれぞれの専門性を発揮し相互に連携しながら、最善の治療やケアを行うとするものです。そこで必要になってくるのが、チーム医療を担うメンバーをまとめるリーダーです。
医療ミスの背景にある連携ミス
がんのCT検査に関連する医療ミスは、昨年の6月だけでも千葉大学病院、兵庫県立がんセンター、横浜市立大学で発覚しています。その背景にあるのは、医療の高度化と分業化です。
従来の画像検査は、基本的なことであればほとんどの場合主治医が自分で読影しており、それでも問題はありませんでした。しかし、画像検査が高度化し、CTやMRIなど高度な検査になってくると話は違ってきます。CTやMRIを使った画像検査では、まず画像診断の専門医(放射線診断医)が読影を行ったうえで報告書を作成し、主治医に渡します。
今回発覚した医療ミスの多くは、主治医が報告書に記載されている専門医の読影結果を見落としていたことが原因でした。これまで、医師の多くは自分の知識とこれまでの経験に基づいて診断してきました。なるほど、従来のような基本的な診断であればそれでも十分だったでしょう。しかし、医療が高度化し一人の医師の力では対応しきれなくなっています。今回発覚した医療ミスも氷山の一角といえるでしょう。
いずれにしても、メンバーの連携を重視するチーム医療を徹底すれれば、こうした医療ミスが起こる蓋然性を減らせることは確かです。
チーム医療に求められるリーダー像
これからのチーム医療に求められるリーダー像とはどのようなものなのでしょうか。その前に、そもそもリーダーシップとは何なのでしょうか。桑田耕太郎氏らは『組織論』(有斐閣アルマ)のなかで、「リーダーシップとは何か」としたうえで、次のように指摘しています。
リーダーシップとは、対人的な影響関係をとらえるためには不可欠の概念である。組織の中の職場集団や人間関係の中で、最も重視されてきた分析概念である。その概念を用いて説明される現象も多くある。しかし、従来から、リーダーシップについては、いわば百人百様の考え方があり、さまざまな定義が試みられてきた。それをただひとつの概念やモデルに収束することは難しい。
その中で、ほぼ合意を得ていることとして、リーダーシップとは特定の個人の能力や資質によるのではなく、対人的な関係の中で発揮され、場合によっては、集団の機能そのものであるという考え方である。特定のメンバーによってなされることがあっても、それはリーダーシップの機能が、その個人によって仮託されているとみなすべきである。つまり、その人、そのリーダーを必要とするのではなく、集団がそのリーダーシップを必要とするから、そのリーダーがいるのである。
そして、彼らは同書のなかで、リーダーシップの二次元構造として、人間関係中心のリーダーシップと仕事中心のリーダーシップという2つの役割を統合する必要性を説いたうえで、この2人のリーダーの連携によって職場は望ましい成果を得ると指摘しています。つまり、これからのチーム医療に必要となるのは、医療という仕事中心のリーダーシップを発揮するリーダーと、そういったリーダーの人間関係に配慮した人間関係中心のリーダーシップを発揮するリーダーという、ヒエラルキーのリーダーシップだといえます。
リーダーは学んで覚えて育つ
人は、周りから何か言われても意識が変わることなく、したがって行動も変わりません。むしろ、それに反発することも少なくありません。しかし、人は、自分が何をすべきかが明らかになれば、行動は変わってきます。チーム医療のリーダーについても同じことがいえます。したがって、チーム医療のリーダーを育てるには、まずはリーダー候補を含めて医療スタッフ全員にチーム医療を学んでもらう必要があります。
愛知県豊明市にある藤田保健衛生大学では、医療の仕事を志す県内4大学の学生が参加し、チーム形式で横断的なテーマを議論しています。これは、学生が医療の現場に出る前からお互いのことをより深く知り、実践的にチーム医療を学ぶ試みです。こういった取り組みは、チーム医療のリーダーを育てようとする際に参考になるでしょう。
桑田耕太郎氏らが指摘する「集団がそのリーダーシップを必要とするから、そのリーダーがいるのである」ということが正しいのであれば、医療チームがそのリーダーシップを必要とするから、そのリーダーがいるということになります。
いずれにしても、管理者はチーム医療のリーダーを育てることはできないとしても、そういったリーダーが育つ職場環境は作ることができます。それが、本来の管理者の仕事です。
これまでの内容をまとめます。医療の高度化と分業化が進展し、さまざまな医療現場でチーム医療の導入が進んでいます。そうなると、これからの医療現場には、チームをまとめるリーダーが必要になってきます。しかし、管理者にできることは、チーム医療のリーダーを育てることではなく、むしろそういったリーダーが育つ職場環境は作ることです。