トラブルをなくす看護師の採用に必要となること
高齢化の進展により、医療の現場では慢性的な看護師不足が続いています。そんななか、一部では看護師の引き抜きが加熱しており、採用したばかりの看護師がすぐに辞めてしまうというトラブルも起こっています。そういった事態を避けるには、看護師と採用する病院側がお互いに納得したうえで雇用契約を結ぶ必要があります。
看護師の転職活動
桑田耕太郎、田尾雅夫『組織論』(有斐閣アルマ)によると、動機づけられた適応行動の一般モデルは次のように表現できるといいます。
(1)意思決定者主体の満足度が低ければ低いほど、代替的選択肢に対する探究活動はそれだけ積極的に行われる。
(2)探索活動が積極化すればするほど、いっそう多くの報酬が期待されるようになる。
(3)報酬の期待値が高くなればなるほど、満足度も高くなる。
(4)報酬の期待値が高くなればなるほど、決定主体の希求水準が高くなる。
(5)希求水準が高くなればなるほど、満足度は低くなる。
これを看護師の転職活動に当てはめると、次のことがいえます。
(1)看護師の満足度が低ければ、転職活動は積極的に行われる。
(2)転職活動を積極的に行なっている看護師ほど、多くの報酬を期待すようになる。
(3)報酬の期待値が高い看護師ほど、満足度も高くなる。
(4)報酬の期待値が高い看護師ほど、求める給料が高くなる。
(5)求める給料が高い看護師ほど、満足度は低くなる。
安定的なマッチング
看護師の引き抜きが行われる理由の一部は、上記(4)「報酬の期待値が高い看護師ほど、求める給料が高くなる」で説明することができます。しかし、同時に上記(5)にあるように「求める給料が高い看護師ほど、満足度は低くなる」ことも考えられます。いずれにしても、高額の祝い金に誘われて転職を決めるような看護師は、必ずしも満足度が高くはなく、定着率が高いとはいえません。では、どうすればいいのでしょうか。
宮崎修一氏は『安定マッチングの数理とアルゴリズム トラブルのない配属を求めて』(現代数学社)のなかで次のように指摘しています。
ただ、一口に「結び付ける」と言っても、様々な結び付け方が可能である。本書のテーマでもある安定マッチングとは、参加者それぞれがペアとなる候補者に対して自分の好み(例えば男性は女性に対する好み、同様に女性も男性に対する好み)を持っており、その好みに基づいた「安定性」という性質を満たすマッチングである。安定性を満たさないマッチングを作ってしまうと、“不倫”を起こそうとする人が生じてマッチングが壊れてしまう危険性がある。そのためか、安定性を必ず満たすマッチングを作るサービスは、そうでないマッチングサービスに比べて長続きしているという報告もある。このように、安定性は非常に重要な役割を果たす概念である。
安定性を満たすマッチングを作るポイントは、双方がその時点での第一志望を選ぶことです。そうなれば、“不倫”を起こそうとする人が生じることもありません。看護師の採用についても同じことがいえます。カギとなるのは、決定主体である看護師の希求水準として、給料だけでなく総合的な働きやすさを考慮に入れてもらうことです。
最後に、トラブルをなくす看護師の採用に必要となることについてまとめておきます。転職活動を積極的に行なっている看護師は、ときに給料の高さを転職先を決める判断基準のトップに据えることがあります。しかし、それは結果的に看護師が定着せず、患者が不安に思うことがあります。そういった事態を避けるためにも、看護師を採用する側の病院は、決定主体である看護師の希求水準として給料の高さだけでなく待遇や働きがいなどを含めて、当病院を第一志望として選んでもらう必要があるといえるでしょう。